咳をして尿もれをする場合は「腹圧性尿失禁」の可能性がある

ふとした瞬間の咳やくしゃみで尿もれをしてしまったという経験をしたことがある方は多いと思います。このような、咳やくしゃみをした際に尿もれをする現象が発生した場合は「腹圧性尿失禁」の可能性が考えられます。腹圧性尿失禁の場合、咳やくしゃみ以外にもお腹に力をいれただけで尿もれをしてしまうこともあり、いつ尿もれを起こすか分からないため日頃から尿もれ対策を立てなければいけません。
そこで今回は、そんな咳などが原因で起こる尿もれに頭を悩ませている方に押さえてほしい、「腹圧性尿失禁になりやすい方の特徴」や「治療の流れ」、「その他の尿もれの原因となる病気」についての情報をまとめました。

咳やくしゃみ時に尿もれを起こす方は多い!

尿もれに悩んでいる人の中には、咳やくしゃみをした際に尿もれを起こしてしまうという人が多くいます。咳やくしゃみは出る瞬間お腹に力(腹圧)が入るため、膀胱に溜まっている尿がもれやすくなり、「あっ!」という間もなく出てしまいます。また、大笑いしているときやスポーツしているときも、同じようにお腹に力が入り尿もれを引き起こしてしまう可能性があります。
尿失禁がある女性の多くは、このお腹に力が入るときに尿もれを起こしてしまう症状で悩んでいます1)。また、男性よりも女性の方にこの症状が多いのですが、膀胱から尿道までの長さに原因があるといわれています。男性の場合は、尿道が長くS字にカーブしているので尿がもれにくくなっています。しかし、女性の場合は、短く直線的なので、お腹に力が入ると尿がもれてしまうことがあるのです。

腹圧性尿失禁とは

咳やくしゃみで引き起こる尿もれに悩んでいる方は多いとご説明しましたが、この尿もれのタイプは、「腹圧性尿失禁」といいます。腹圧性尿失禁は、膀胱やその周りの筋肉を支える骨盤底筋の衰えからくる症状です。骨盤底筋は名前の通り骨盤の底にある筋肉で、骨盤の中にある内臓を支えたり尿道口の調整をしてくれたりする役割があります。
骨盤底筋がゆるむと尿道口をしっかりとしめることができなくなるため、少しの腹圧でも尿がもれてしまう現象が発生します。なお、女性の場合は、年齢や出産による影響で骨盤底筋が衰えることがあり、腹圧性尿失禁を発症しやすいと考えられています。なかには、腹圧性尿失禁の症状が重くなり、立ったり座ったりするだけで尿もれを起こしてしまうという方もいます。

腹圧性尿失禁はどんな人に多い?

咳やくしゃみをした際に起きる尿もれは「腹圧性尿失禁」だということをご説明しましたが、腹圧性尿失禁はどのような方が発症しやすいのか気になっている方も多いと思います。そこで、ここでは腹圧性尿失禁になりやすい方の特徴と併せて、腹圧性尿失禁の可能性がある尿もれの症状をご紹介します。

腹圧性尿失禁になりやすい人の特徴

  • 出産経験がある人

    出産時は骨盤底筋に大きな負担がかかるため、骨盤底筋がゆるんでしまい、腹圧性尿失禁になる可能性が高くなります2)

  • 肥満体質の人3)

    肥満と腹圧性尿失禁は関係していると言われています。また、減量をして尿もれが改善したという報告もあります。

  • よく便秘になる人3)

    便秘でいきんで排便することが腹圧性尿失禁のリスクになると言われています。

  • 喫煙をしている人3)

    喫煙と腹圧性尿失禁は関係していると言われています。また、ニコチンが膀胱を収縮させたという実験結果もあります。

こういう場合も腹圧性尿失禁かもしれない

咳やくしゃみなどをしたさいにお腹に力がかかることで尿もれをおこすのが「腹圧性尿失禁」とご説明しましたが、他にも腹圧性尿失禁かもしれない尿もれの症状をいくつかご紹介します。当てはまる場合は、腹圧性尿失禁かもしれないので、病院などで診察を受けることも考えておきましょう。

  • 長時間歩いていると尿がもれる
  • 重い物を持ったり持ち上げたりした際に尿がもれた

腹圧性尿失禁だけじゃない、その他の尿もれのタイプ

ここまで、腹圧性尿失禁についてのご説明をしましたが、尿もれには腹圧性尿失禁以外にもタイプがあります。そこで、こちらでは「切迫性尿失禁」と「混合型尿失禁」について情報をまとめました。

切迫性尿失禁

切迫性尿失禁は、突然強い尿意に襲われ我慢できずに漏らしてしまう症状が特徴です。切迫性尿失禁は「過活動膀胱」の症状の一つです。よくみられるのは、ドアノブに手をかけた際にもれる「ドアノブ尿失禁」や水の音をきいて急激に尿意を感じる「手洗い尿失禁」です。

混合性尿失禁

混合性尿失禁は「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」の両方の症状が現れます。尿失禁のある女性の3割がこの混合性尿失禁だといわれています1)

治療の流れを知ろう

咳やくしゃみがきっかけで尿もれをする場合に考えられる原因と、尿もれに悩んでいる方が押さえておいてほしい尿もれのタイプについてご説明しました。日常生活で支障をきたす尿もれは放っておかずに、受診することをおすすめします。
ここでは、それぞれのタイプ別の治療方法をご紹介しますので、ぜひ、参考にしてください。

腹圧性尿失禁の治療方法

腹圧性尿失禁の治療方法は、「骨盤底筋体操などの行動療法、薬物療法、手術療法」などさまざまな方法があります。比較的に症状の軽い方は骨盤底筋を鍛える行動療法で尿もれを改善できる場合があります。骨盤底筋を鍛えても尿もれの改善が見られない場合は、医師に相談をして、薬物療法や手術療法などの治療も検討しましょう。

切迫性尿失禁の治療方法

切迫性尿失禁は過活動膀胱という病気の症状の一つで、基本的に医師が処方する薬で治療を行います。また、薬物療法だけではなく、骨盤底筋体操や尿をなるべく我慢する膀胱訓練などの行動療法を行うこともあります。

尿もれには種類があり、それぞれのタイプによって治療方法が変わります。そのため、しっかりと治療するために、自身の症状がどの尿もれの種類に当てはまるのか確認することが大切です。なお、混合性尿失禁の場合は、「腹圧性尿失禁」「切迫性尿失禁」どちらの症状がより深刻かを見極めながら、医師が治療を行いますが、自分の状態をよく理解した上で治療を受けるようにしましょう。また、自身の尿もれの症状が、どのタイプか分からないという方は、尿もれのタイプを診断する問診シートなども活用してみてください。

尿もれの原因を確認して早めの治療を心掛けよう

今回は、咳やくしゃみをきっかけに尿もれを引き起こしてしまう「腹圧性尿失禁」についてまとめましたが、参考になりましたか?日頃から尿もれに頭を悩ませている方は意外と多いです。しかし、尿もれはあまり周りに相談ができないデリケートな悩みなので、なかなか恥ずかしくて病院へ行けずに、放っておいている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、日常生活の中でいつ尿もれが起きるか分からない不安感をいつまでも抱くよりも、今日ご紹介した「尿もれの原因や種類」「治療法」などを参考にして、医師の診察を受けることをおすすめします。

<参考文献>

1) 日本排尿機能学会 女性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会 編: 女性下部尿路症状診療ガイドライン第1版 リッチヒルメディカル株式会社: 37, 2013
2) 西井 久枝: 泌尿器ケア 18(4): 414, 2013
3) 日本排尿機能学会 女性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会 編: 女性下部尿路症状診療ガイドライン第1版 リッチヒルメディカル株式会社: 82, 2013