溢流性尿失禁の症状とは?正しい対策方法を知って改善しよう

ここでは、多くの人が悩まされている尿もれのひとつである「溢流性(いつりゅうせい)尿失禁」の特徴や、治療方法をご紹介します。あてはまりそうな特徴や原因はないか、他の尿失禁の可能性はないか確認していきましょう。

溢流性尿失禁とは

尿失禁にはいくつかの種類があるため、他の尿失禁との違いを知っておくことが重要です。そこで、まずは溢流性尿失禁の特徴と問題点をご紹介します。

溢流性失禁の特徴

「溢流性」とは、「あふれて流れる」という意味で、溢流性尿失禁になると尿が少しずつ膀胱からあふれてしまい、尿もれが起きます。溢流性尿失禁という呼び方の他に、「奇異性尿失禁」と呼ばれることもあります。排尿がしづらくなり残尿が多くなることで、尿を溜めておける限界を超えてあふれてしまいます。
溢流性失禁は、排尿時に通常より長く時間がかかったり強い残尿感があったりすることが特徴です。尿を出し切ることができないためトイレに行く回数が増えたり寝ている間に漏れてしまったりすることがあります。また、少しずつ尿があふれてくるため、漏れていることに気づきにくいということもあるようです。

溢流性失禁の問題点

溢流性失禁では、いつも尿が漏れやすい状態になるので、尿もれによる下着の汚れや臭いが気になり、不快感があることが問題です。
さらに溢流性尿失禁を放置していると、常に膀胱に尿が溜まった状態になってしまうため、腎臓から尿が流れにくくなって腎臓にも悪影響が出やすいことも問題です。最悪の場合は、腎不全などの重篤な症状を引き起こす危険性もあるため1)、医師の診断に基づく早めの治療が必要となります。

溢流性尿失禁が発生する原因

溢流性失禁になってしまう原因は、ひとつだけではありません。ただの尿もれだと思っていても、実は重大な病気が原因となっている可能性があります。溢流性尿失禁の原因を詳しく見ていきましょう。

溢流性尿失禁の原因

溢流性失禁になるのは、主に尿路が閉塞してしまうか、排尿筋が弱くなるか、あるいはその両方が原因です2)。どちらも尿が正常に出せなくなってしまうため、膀胱内に尿が溜まってしまい、限界を超えて溜めることができなくなった尿が漏れだしてしまいます。さらに尿路の閉塞や排尿筋の衰えは、以下で紹介する病気によって引き起こされている可能性があるため注意が必要です。

前立腺疾患

前立腺肥大症などの前立腺疾患では前立腺が肥大するため、尿路を塞いでしまいます。60歳代では約70%、70歳代では約80%の方に前立腺の肥大がみられ、その内1/4程度の方に治療が必要と考えられています。前立腺の肥大は男性に現れる加齢現象の一つと考えられており3)、前立腺肥大症の有病率も加齢に伴って高くなるといわれています4)

骨盤臓器脱

骨盤臓器脱は、妊娠出産による腹部の負荷や、加齢などにより骨盤を支える骨盤底筋が弱ることなどで引き起こされる病気です5)。女性だけに起こる病気で、子宮・膀胱・直腸などの臓器が下がり、膣から出てしまいます。下がった臓器が尿路を圧迫することで、尿が出しづらくなります。肛門から直腸がはみ出す病気として、男性にも起こる直腸脱という病気もありますが、これは骨盤臓器脱ではありません。

糖尿病

生活習慣病として広く知られている糖尿病も、溢流性尿失禁を引き起こす原因のひとつです。糖尿病が進行すると、末梢神経障害が起こり、膀胱の収縮がうまく調節できなくなってしまいます。そのため、尿を排出することが難しくなってしまうのです。また糖尿病になると、のどが渇きやすくなります。それにより水分を摂ることが多くなり、ますます尿の量が増えて溢れやすくなります。

脊椎疾患

脊椎の疾患や怪我による損傷も、溢流性尿失禁が起きる原因です。脊椎からの神経伝達がうまくいかなくなるため、排尿筋の収縮がしづらくなり、尿もれが起きてしまいます。

その他の原因

これらの病気の他にも、いくつかの原因が考えられます。例として、抗ヒスタミン薬や抗コリン薬の一部など、別の病気の治療に使われる薬剤も、溢流性尿失禁を起こす場合があります1)。また、子宮がんや直腸がんなどの膀胱周辺への手術によって、膀胱の収縮力が低下して溢流性尿失禁になることもあります1)

このように、溢流性尿失禁は、様々な原因で引き起こされるため、正確な原因を特定して、治療を始めることが必要です。もしも心当たりがある場合は、病院で診察を受けましょう。

溢流性尿失禁の治療法・対策

溢流性尿失禁は、病院で治療を受けることができます。ここでは主な治療法と改善・予防方法をご紹介します。

主な治療方法

一般的に尿失禁などの排尿障害では内服薬による治療が有効ですが、溢流性尿失禁の場合は、それだけで治療することは難しい場合があります。また膀胱収縮を抑制する作用がある抗コリン薬は、前立腺肥大症では禁忌とされているなど、場合によっては溢流性尿失禁が悪化するものもあります。そのため溢流性尿失禁を改善するためには、前立腺疾患などの原因となる疾患を突き止めて、治療を受けることが必要です。
また、これらの治療の他に、「間欠導尿」という一定時間ごとにカテーテルで残尿を出す方法を指導することもあります。間欠導尿は、医療関係者だけではなく患者本人や、介護する家族でも行えることがメリットです。日常で尿もれを起こしたり、おむつや尿パッドを使ったりせずに済むようになるため、生活の質を改善することができます。

溢流性尿失禁の対策

前に説明した通り、溢流性尿失禁はさまざまな病気が原因になっています。したがって、溢流性尿失禁を予防するには、その原因となる病気を予防したり、進行しないようにすることが重要です。前立腺肥大症は肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症といった生活習慣病との関連が指摘されていて4)、さらには、糖尿病はそれだけで溢流性尿失禁の原因になるため、食生活や運動習慣に気を付けましょう。
また、溢流性尿失禁の原因になり得る薬剤を確認しておくことも必要です。抗ヒスタミン薬や抗コリン薬を使用していて尿もれが気になる方は、医師や薬剤師にそのことをきちんと伝えてください。問題がないかどうか確認してもらったうえで使用を続けるか、代わりの薬剤を処方してもらいましょう。抗ヒスタミン薬は、主にアレルギー症状を抑えるために用いられる薬です。抗コリン薬は膀胱収縮の他に、胆石症や尿路結石の疼痛緩和、下痢止めなどの目的でも用いられています。
さらに注意点として、溢流性尿失禁の場合、尿を出し切ろうとしてお腹に力を入れるのは逆効果です。あまり強い腹圧がかかりつづけると、膀胱や尿道にさらに負担がかかってしまう恐れがあります。排尿だけではなく、排便の際にもなるべく力まないように気をつけましょう。ただし、これはあくまで予防や一時的な対処であり、気になる症状がある場合には、医師の診察を受けて適切に対処することが大切です。

セルフチェックしてみましょう

尿もれの種類は、溢流性尿失禁だけではありません。別の原因がないか確認するためには、まずは問診シートでセルフチェックをしてみることがおすすめの方法です。あらかじめ症状を絞り込んでおけば、病院での診断をスムーズに進めることができます。

<参考文献>

1) 加藤 久美子: 臨床泌尿器科 62(4): 135, 2008
2) 岡村 菊夫: 泌尿器ケア 12(12): 11556, 2007
3) 香川 征 監修: 標準泌尿器科学  第8版 医学書院:255, 2010
4) 日本泌尿器学会 編: 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン第1版 リッチヒルメディカル株式会社: 51, 2017
5) 加藤 久美子: 泌尿器Care & Cure Uro‐Lo 21(2): 214, 2016